tetoの日記

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読書レビュー: 桜のような僕の恋人

ファストフォワード病という成人後にごく稀に発症する病気がある。ファストフォワードとは早送りという意味で、常人の数十倍もの速さで老化が進み、遅くても一年後には全くの別人の老人の姿に変えてしまう。この本はその病気が一つのテーマになっている。

この本で主人公と言える美咲は24歳の駆け出しの美容師だ。やっとカットを任せられるようになり、記念すべき正式な客の一人目が朝倉晴人だった。

彼は美咲に一目惚れをし、熱心なアプローチをする。二人は間もなく恋人同士となるが、美咲の体調が崩れることが多くなり医師の診察の結果驚くべき診断を聞かされることになる。三ヶ月以内には自分の見た目も変わり果ててしまうと聞き、悩んだ美咲はある決断をする。

 

あとはネタバレになってしまうので詳細は控えるが、女性として読んでいてとても辛かった。毎日鏡を見るたびに自分の姿が老け込んでいくのだ。その恐怖は想像に難くない。

人間は誰しも老けていくものだが、少しずつ歳を重ねて、ゆっくりと変わっていく自分を知人やパートナーの変化と共に時間をかけて受け止めていくものだと思う。

しかし美咲の場合は違う。周りがまだ若い姿のまま、自分だけが見た目も身体機能も急速に老けていってしまうのだ。女性にとってこれ以上の恐怖があるだろうか。

好きな人には美しい姿を見せていたい。女性なら当然の心理だと思う。彼女の葛藤を思うと胸が痛む。

前向きで明るく辛い時でも笑顔をふりまく彼女が、病気の進行と共に周りに毒づくようになり自己嫌悪に苦しむ。

彼女の兄は病気の進行を止めようと怪しげな高額の民間療法に飛びついてしまう。闘病生活は金銭的にも精神的にも余りに当事者達にかかる負荷が大きい。

余談だが、物語の最初の美咲の恋愛の心情の描写は、男性が書いたものだけあって少し男性の理想像が入っているような気もした。女性が物語で作り出す男性も同じように思われているのかもしれないなんて思った。

カフェで読んでいて、最終章は外にいるにも関わらず涙ぐんでしまった。普段恋愛系の小説は読まないが、色々考えるきっかけをくれて良かったと思う。